著者インタビュー「本当は、避難しなくてよい家が一番」小峰 昇さん(住まいの文化研究家)

2020.10.08インタビュー

小峰 昇さん(住まいの文化研究家)

私たちは自分の家のことを知らない

――本書を読んで、身近なことなのに実はよく知らないことがあると気付かされました。たとえば、壁や天井、床の向こう側がどうなっているのかも知らずに生活していました。 

たとえば、壁に家具を固定するときは、壁の裏側にある柱などにしっかり留めなければ意味がありません。家具と天井板の間につっぱり棒をあてがっても、天井板自体は強度がないので、いざというときは家具が倒れてしまうでしょう(図1)。これは、家の構造を知らなければわかりません。

【図1】天井裏(マンガ 長野 亨)

私が残念に思うのは、日本人には住まいに関する知識を得る機会がほとんどないということです。大人になると、必要に迫られないと勉強しない。つまり、実際に災害が起こった後です。これほど災害の多い日本では生活に必要なことなのに、学校でも多くは教えられていない。本来は、家庭科や技術科でもっと教えられるべきことだと思います。

余談ですが、日本の学校教育では、なぜお金の話をしないのでしょう。「平均給与がいくらで、この近辺では家やマンションがいくらで建てられるのか。その場合、住宅ローンの返済比率は収入の何%以内にしなければいけないのか」といった家庭経済の話は一切しません。社会保険の費用負担のことも含めて、私は必要だと思います。家の中でやっていればいいという話もありますが、近代になって、代々伝承されるような知恵は、家制度の崩壊とともに霧消してしまいました。

立派な目標よりも、できることから

――本書はB5版、65頁で、冊子状にコンパクトにまとめられていることも特徴です。編集方針を教えてください。 

内容は、防災の住まいづくりに必要な知識として必要最低限のものにしぼり、「できることをやろう」という考えでまとめました(目次はこちらを参照)。「あれも、これも」となるときりがなくなります。たとえば、防災用品や備品にしても、揃えることに越したことはありませんが、誰でもできるわけではない。立派な目標も、実現できなければ目標がないのといっしょです。継続のコツは、最初から完璧を目指さないこと。本書は、あくまでも入り口に過ぎません。しかし、入り口に入らなければ奥も見えません。

目を通してもらえるよう、見開き2ページの左に解説、右に関連するマンガを配置しました(図2)。絵の力は強いもので、ついつい読んでしまう。解説も、簡潔さと読みやすさを心がけました。

【図2】家具の固定について、文章とマンガで解説

――遊び感覚でできることも紹介されていて、気軽に始められそうです。 

たとえば、今はやりのアウトドアやキャンプも、災害のときには役立ちます(図3)。お子さんのいる家庭であれば、休みの日にベランダにテントを広げるだけで訓練になります。

また、最近よく耳にする「ローリングストック」(回転備蓄)も有効です。災害に備えて買い置きしてある水や缶詰、レトルト食品は、そのまま放っておくのではなく、常に消費しながら買い替える。食べたいものを食べながら、災害への備えができます。

【図3】いざというときはキャンプ用品も有効

――最後に、読者にメッセージを。

最後に付け加えておきたいのは、この本に書き切れなかったことです。1つは、災害への備えには、その家で暮らす家族の間に十分なコミュニケーションが必要だということ。たとえば、夫が何かこうしたいと思っても、妻がそれに同意しなければ(逆も同様)、十分な備えにはなりません。そして、もう1つは、家の中の整理整頓が必要だということ。家の中が物であふれていたら、いざというときに動きがとれません。

いずれも、「どのように住まうのか」という考え方の問題です。防災の住まいづくりは単に建物や備品などのハード面の問題でなく、「どうあるべきか」を自分で考えることが必要です。すでにお話ししたように、本書はあくまでも入り口に過ぎません。私に惑わされず(笑い)、ご自分で研究を深めてください。 

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  • 家で災害に耐える~家にいて守ろう~
  • 著者:小峰 昇(住まいの文化研究家)
  • マンガ:長野 亨
  • 監修:小山 勝(防災士)
  • 発行:年友企画 
  • 定価:1,000円(本体)
  • 2020年9月1日発行
  • ISBN978-4-8230-2202-9