医療と介護の連携のカギはナイチンゲール覚書?
当社で編集、制作している季刊へるぱ!の15号が発行された。今回の特集は、介護職による吸たんなどの一部医療行為の法的解禁を受けて「医療と介護の連携はどうか変わるか?」。私が取材して印象的だったのは石垣靖子さん(北海道医療大学大学院教授)と篠崎義勝さん(八戸大学准教授)がともにナイチンゲールの「覚書」に触れていること。
石垣さんは介護職の医療行為解禁を容認する立場で篠崎さんは容認しない立場なのだが、立場を超えて看護・介護の共通の原点としてナイチンゲールの「覚書」をあげている。石垣さんは「看護も介護もそのよって立つところはナイチンゲールです。・・・・ナイチンゲールの『看護覚書』は、ナースのために書かれたものではなく一般家庭の女性のために書かれたもので、看護も介護も包含したものなのです」と語り、一方、篠崎さんは「私は介護の出発点は看護だと思っています。看護の『療養上の世話』が枝分かれして、さらにそれが深化したしたものが介護。にもかかわらず介護福祉士の養成校でナイチンゲールの『覚書』を読んでいるところは一校もないはずです。これを読むだけでも共通項はできる」と語る。
門外漢の私とってナイチンゲールの知識はクリミア戦争の従軍看護婦として傷病兵を献身的に看護したという小学生のときに読んだ絵本くらいのものだ。今回Wikipediaで調べると当時の看護師は病院で病人の世話をする単なる召使と見られ、専門知識の必要がない職業と見られていた。ナイチンゲール以降、専門職として認められるようになるのだが、石垣さんも篠崎さんも看護師と介護士は同根でありその根拠をナイチンゲールの「看護覚書」に置いているところも共通する。
余談だが、ナイチンゲールはクリミア戦争に従軍を希望した当初、従軍を拒否されたが病院の便所掃除を始めることによって病院内に入り込んでいったという。今回の大震災でボランティアナースが避難所の便所掃除から始めたのと共通する。被災地のナースたちは当然、ナイチンゲールの事跡を知っていたんだろうな。もうひとつ余談。クリミア戦争後ナイチンゲールは数々の統計資料を駆使して病院の状況分析を行う。このためナイチンゲールはイギリスでは統計学の先駆者としても知られているそうだ。
12月2日
杉並区の浴風会は特別養護老人ホームや病院を経営している社会福祉法人。厚生労働省の老健局の補助金を得て、介護職員の吸たん等の医療行為の研修会を行うというので見学させてもらうことにした。研修は3日に分けて行われたが、私は初日は厚労省社会援護局の担当者からの説明だけを聞き、2日目は吸たんの実技実習を見学、3日目は主催者(浴風会ケアスクールの服部安子校長)、講師(看護師の高橋好美さんと大津陽子さん)、それに実技研修をアシストした看護師の方々による反省会に参加した。
2日目に講師の高橋好美さんと話す機会があったが、高橋さんは来年の医療報酬と介護報酬の同時改定によって入院期間の短縮という方向はさらに強まってくる、そうした場合その受け皿として施設、在宅を問わず介護職と医療職の連携の必要性は高まって来ざるを得ない、そのために介護職も医療行為の一部をやるのだと述べた。高橋さんの考えは、時代のトレンドとして入院期間短縮の要請があり(事実、日本の入院期間は先進国のなかでも際立って長い)、そのためには地域における医療と介護の連携は不可欠であるというものだ。
私たちは今、時代の大きな転換点にいることは間違いのない所であろうと思っている。別に格段の根拠があるわけではない。私が60数年生きてきた経験からそう思うのだが、長寿化というわが国のメガトレンドのなかで、「医療と介護の本当の意味での連携」をなしとげられるかどうかが、時代の転換点を乗り切れるかどうかのポイントのひとつであると思わざるを得なくなってきた。
「キャンナス」というのは全国訪問ボランティアナースの会の愛称で「できる(can)ことをできる範囲でするナース(nurse)」ということで名付けられた。代表の菅原由美さんのことは、鹿児島で訪問診療に取組んでいる中野一司先生が主宰するML(CNK=ケアネットワーク鹿児島)で見かけたことはあるが、お会いするのは「へるぱ!」の前々号の「東日本大震災特集」が始めて。その後、今度は筆者が主催した「被災地の日本酒を呑む会」にも出席していただき、被災地での活動報告を簡単にしてもらった。
今回、「介護職の医療行為」でも取材させてもらったわけだが、実際に取材メモをとってくれたのはフリーライターの森絹江さんで、以下、森メモをもとに菅原さんの考え方の一端を紹介しよう。
菅原さんは訪問看護だけでなくヘルパーステーションも運営しているが、そこでの経験からすると「できる人はやればいいと思うけれど、全ての人にできるかっていうと…」。
したがって解禁していく手順が難しいという。60時間の研修を受ければ法的には介護職も一部の医療行為ができるようになるとはいうものの、菅原さんは研修を受けるだけではなく、菅原さんの組織での再教育も必要かもしれないと悩んでいる。
菅原さんは介護職へ医療行為の一部を解禁するなら、准看護師の活用を考えたらと提案する。准看護師廃止を言っている看護協会には怒られてしまうがと前置きして、准看護師の養成カリキュラムのなかに介護福祉士が准看護師になれる道をつくるべきだという。
「医療と介護の切れ目のない連携」や「多職種連携」によって一人の患者(利用者)の生活を丸ごと支えていくというのが、恐らくは正しいのだろう。しかしそのときそれを担う専門職の中身と守備範囲の検証も不可避となってくるのではなかろうか。
「へるぱ!」の次号(2012年1月発行予定)の特集は「介護職の医療行為」。厚労省が「痰の吸引」などに関して一定の研修を経た介護職にも認めるという方針を受けてのものだ。介護職や看護職の労働現場が現場によっては非常に過酷な状態になっていること、医療と介護の連携が進むことなどを考えると、私も「介護職が医療行為をやるというのも時代の流れかな」程度の認識で特集の取材をスタートさせた。
ところが取材を進めるうちに、この問題は「そう簡単じゃないな」と思うようになった。最初は被災地石巻の訪問介護事業者「ぱんぷきん」の渡辺常務の取材であった。事業所自体が津波にやられ従業員にも亡くなった人や行方不明者が出た「ぱんぷきん」だが、社長、常務の陣頭指揮で石巻とその周辺で大震災を契機に「新しい介護の実現」にゼロから、いやマイナスからのスタートを切っている。
被災した当時の「医療と介護の連携」について聞いてみると「医療が必要な人は速やかに病院または医師、看護師のもとに移送しました」とシンプルな答え。あぁ、なるほど。震災直後はDMATT、JMATTをはじめとした医療チームが被災地に入り、献身的な医療を行ったことは記憶に新しい。「では」と視点を変えて、「介護職にも医療行為が認められますが、これについては」と聞いてみた。渡辺常務は「むずかしいですね」と、忙しいヘルパーに研修時間を確保すること、何かあったときの責任の所在の問題などをあげた。
次回は「キャンナス」の菅原代表の考えを紹介しよう。
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健康・生きがい開発財団の大谷常務が「夢のみずうみ村」を見学に行くという。山口県にあるこの大規模デイサービスセンターは、バリアフリーならぬバリア“アリー”(つまり「バリア有り」)の構造や、施設内にカジノがあって利用者がマージャンや花札をリハビリに活用していること、また、片麻痺の人が片手で調理やパンづくりを行い、これも立派にリハビリのなかに位置づけている施設として知られている。前に厚労省の宮島老健局長が「あそこは面白いよ」と言っていたことを思い出し、一緒に連れて行ってもらうことにした。同行したのはほかに、東京都介護福祉士会の白井会長、東京福祉専門学校の白井先生(同じ苗字ですが関係ないようです)など、総勢7名。
午前中に見学したのが山口市の郊外、湯田温泉の奥にある「夢のみずうみ村 山口デイサービスセンター」。けっこうきつい坂を登って、山の中腹と思しきあたりにこのデイサービスはあった。東京あたりでデイサービスを思い浮かべると、こぎれいなビルの1階であったり特養や老健施設に併設されていたりと、まあ鉄筋コンクリートで作られているのが当たり前と思うのだが、ここは一見すると増改築を重ねた山の湯治場風の、お世辞にも「瀟洒」とは言いがたい構えである。
10時に見学を始めたが、開所は9時からで、多くの利用者は受付を済ませ、それぞれのメニューにしたがって、プール、陶芸、習字、調理、木工などの部屋で作業を続けたり、ここではポパイと呼ばれる筋力トレーニングに励んでいた。
メニューは強制されるのでなく、あくまでも自分で選ぶ。自己選択、自己責任がこの村の原則だ。朝、利用者はホワイトボードに自分のネームプレートを貼り、それから希望のメニューのプレートを貼り付けていく。プール・カラオケ・食べる(食事のこと)・カジノ…などと貼られていく。プレートにはバーコードが付いていて、後でスタッフがそれを読み取り、管理する。こうしたシステムがあるからこそ毎日100人の利用者に100のメニューを提供することが可能なのだろう。
廊下にはあえて手すりをつけず、多くの人が介助なしで自力歩行している。廊下には随所にクイズコーナーがあり、徳川の十五代将軍の名前を順番に並べさせたり、漢字の読みを当てさせたりと、これがなかなか難解。正解者にはここでの地域通貨ユーメが賞品として与えられる。リハビリ機器の利用料などにもこのユーメが当てられるが、逆に廊下を何メートル歩いたら何ユーメと、利用者に交付されることもある。見学者への案内は「水先案内人」と称する利用者が行うが、この報酬は1000ユーメとのこと。ユーメが威力を発揮するのはカジノ。マージャンでも花札でもユーメが行ったり来たりする。「勝てばうれしい、負ければ悔しい」。片手に麻痺の残る人が、真剣かつ楽しそうに麻雀パイを積んでいた。
午後は、山口センターから車で小1時間の防府のセンターへ。こちらは海がコンセプト。潮の香りが気持ちいい。水先案内人の河村さんは脳血管障害の後遺症でここにリハビリに通うようになり、要支援2が要支援1に改善したという。送迎に使う車には「夢」と大書され、「みんなちがって、みんないい」の文字も。河村さんにこれ分かりますか?と聞かれたが、わかりません、なんですか? 詩人・金子みすずの「わたしと小鳥とすずと」だそうです。
いろいろなことを考えさせてくれる「夢のみずうみ村」だった。
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